東京六大学準硬式野球春季リーグ戦で、14年ぶりの優勝を果たした慶應義塾大。長谷川優太(3年=慶應義塾)は抑えのピッチャーとして9試合に登板し、防御率0.42の好数字で最優秀選手に選ばれた。リーグ戦の優勝決定戦となった法政大戦でもクローザーとして登板し、胴上げ投手になるなど大活躍した長谷川に、活躍の要因を聞いた。
■縫い目に色がついていない準硬式球は、ツーシムが有効
長谷川は高校軟式野球部出身だ。
「中学時代も軟式野球部で、甲子園出場を目指すような塾高野球部では、試合に出場できそうに ないと思ったので軟式を選びました」と話す。
決め球のスライダーで三振を取り、観る者に「長谷川なら安心だ」と思わせる安定感を持つ長谷川がどのように準硬式野球のボールに順応できたのだろうか。聞くと、高校時代は腰のケガなどで、野手としての出場が多かったそうだ。
「準硬式を選んだ理由は、軟式よりレベルの高いので、自分がどれだけ通用するか試したかったからです。部員の多い硬式野球部に入るよりも、試合に出るチャンスが広がると思いました」と話す。
軟式からの転向をうまく乗り越え、クローザーとして春のリーグ戦で最優秀選手賞を受賞した長谷川。活躍の要因を聞くと「準硬式野球部に入ってからトレーニングをしっかりするようになり、投げ方についても自分の頭で考えるようになりました。球速が10キロほど上がり、自分の武器であるスライダーが生きるようになった。軟式では、アウトローにコントロールできていればほとんど打たれなかったので、ストレートとスライダーしか投げていなかったのですが、準硬式になって打者のレベルも上がったので、チェンジアップとツーシームを増やした。硬式球と違って縫い目に色がついていないから、打者は回転が見えにくい。ストレートと同じ球速・軌道で、少しだけ変化するツーシームが有効でした」と話した。
■種類の違う2社の準硬式球を熟知し、投球を変えている
準硬式球には主に、ナイガイボールとケンコーボールという2種類あるが、長谷川はそれぞれの球の特徴も研究したそうだ。「ケンコーはナイガイに比べ、小さくて軽い。スライダーは変化が大きくなり、曲がりが速くなるし、ツーシームの曲がりは小さくなります。ナイガイに比べて球足が速く、芯を外して打ち損じても打球が速いので、ゴロが内野の間を抜けてヒットになってしまう。小さい変化は通用しないので、チェンジアップを投げるようにしました」と話す。メーカーの違いにも興味を持ち、対策をしていた長谷川。活躍の裏には深い探究心があった。
■与えてもらった「抑え」という仕事が天職だった
「抑え」というポジションも天職だったそうだ。「高校時代は二番手ピッチャーだったので、リリーフ登板には慣れていました。大学1年生の春、新人戦で先発ピッチャーとして投げたが4回ノックアウト、3年生の春は、対早稲田大学戦で中継ぎとして80球を投げ、サヨナラ負けを喫しました。僕はスタミナがないので、先発は不向きだと思います。そんな自分を理解してくれている監督の采配のおかげで、力を発揮できたのだと思う」と語った。
高校で軟式野球部に所属する選手にとって、準硬式野球部はハードルが高い、と感じている高校生は多いかもしれない。そんな高校生に向けて、長谷川は「球を投げた感じは、硬式球より軟式球に近かったから、投げることに対する不安はなかったです。高校野球を引退してからすぐに準硬式球で練習したので、そのおかげもあると思います。」と話す。
「軟式球と準硬式球では、投げる時の手の触感があまり変わらないため、軟式野球部出身者でもすぐになじむことができると思います。他大学には、甲子園出場経験のあるチームからやってきた選手が多く所属しているチームもあり、レベルはかなり高いです。正直、今まで感覚とセンスだけで野球をしてきたが、意識の高い選手が多いので、僕も頭を使って練習に取り組むようになりました。確実にレベルアップできるし、そのような格上の選手とも対戦できるから、とても楽しいです。もっとレベルの高い選手と対戦したい軟式野球部の高校生たちは、ぜひ準硬式野球を候補の一つに入れてみてください!」とエールを送った。
軟式から準硬式の舞台へ、一見ハードルが高いように思われるかもしれないが、一度飛び込んでみれば、自分の野球技術と向き合い、成長するべく試行錯誤しながら、格上の相手を倒すために、真剣に努力する最高の日々が待っている。軟式野球部の高校生でも、長谷川のような成長をきっと、果たせるはずだ。
文╱井上瑠夏(慶應義塾大3年=横浜雙葉)