“JUNKOWEB”

「自分のため」だけでは乗り越えられなかった文武両道の壁/慶應大・山賀雅史

 東京六大学春季リーグ戦で、慶應義塾大が14年ぶり4度目のリーグ優勝を果たした。優勝に貢献した1人、山賀雅史(3年=都昭和)は打率.406で首位打者賞とベストナイン(外野手)を獲得した。必修授業や実験が多く、他の文系学部よりも勉強に割く時間が多い理工学部に在籍しながら、文武両立で活躍を果たした山賀に、野球と学業の両立についての工夫を聞いた。

今春のリーグ戦(対明治大・第3戦)でサヨナラヒットを放った山賀雅史(3年=都昭和)

■「勉強と野球、どちらも手を抜かない」ことへの挑戦
「想像していたよりも準硬式のレベルは高かった。甲子園経験者が多く所属する大学の存在に圧倒されたし、145キロを投げる投手なんて高校にはいなかったので、ビックリすると同時に、対戦が楽しみになった」山賀は入部当時の心境について語った。

 山賀は都立昭和で硬式野球部、そして受験勉強の期間を経て、慶應義塾大に入学した。彼の出身校である都立昭和からは、毎年3、4人が準硬式の世界に足を踏み入れる。高校時代から先輩に準硬式の話を聞いていた彼にとって、大学で準硬式野球部に入ることは自然な流れだった。入学時は「高校野球よりレベルの高い環境で再び野球に取り組める」と期待に胸を躍らせていたそうだ。

 しかし、理工学部ではほぼ毎日提出課題があり、週に1回は10時間ほどかかる実験課題も課されるため、週6回の練習との両立は想像していた以上に難しかった。「チームは実力主義なので、少しでも結果が出なかったらすぐにメンバーを変えられてしまうし、たとえ授業という理由があったとしても、練習に来られないのに試合に出場すれば、それをよく思わない人だって当然出てくる」。レギュラーを獲るにはどちらも手を抜けない。「文武両道」の難しさに直面したという。

 そんな状況を打破するために、山賀は学生生活を根本から見直し、タスク管理を工夫した。例えば、午前中の練習が終わった後には必ず、グラウンドに近い大学の図書館に寄り、1時間だけでも毎日継続して勉強することを心掛けるようにした。その1時間は特に、日々課される課題に注力して取り組み、効率を上げた。また、週末の授業がない期間を使って、重い実験課題を終わらせたという。さらに、試験期間で部活がない日も必ず図書館に通うことで、勉強習慣を失わないように心がけたという。

「毎日の少しずつの勉強で日々の課題はこなしていけるし、試験前には長期オフがあるので、そこで集中して試験勉強に取り組むことができる」。

 野球の練習でも、日々勉強する中で習得した「工夫する意識」を持って努力した。「私は他の選手よりパワーがあって目を惹かれるような選手ではないため、練習でアピールすることを心がけてきました。練習は回数が多くアピールできるポイントも多いのでこの意識を持つだけでチャンスを掴むことも多くなると思います」そして、100人近くの部員数を持つ慶應で、レギュラーを勝ち取ったのだ。

入部当時「想像していたよりも準硬式のレベルは高い」と感じた山賀だったが、3年春に初のタイトルを獲得した

■「黄金期を作りたい」。チームに貢献したいと思えたわけ
 学業にも力を入れ、かつ野球でも試合に出続けた山賀。結果を残すためには、「自分のため」というモチベーションだけでは乗り越えられなかったという。

「慶應にはいい人が多い。人のいい面を見て、褒めるときは素直に褒め、指摘するときには臆せず指摘する。ただの仲良しな集団ではないからこそ、競争意識も刺激されるし、みんなが頑張っているからこそ、自分も頑張ろうと思える」と語る。

 今春のリーグ戦でも一時怪我で戦線を離脱したが、モチベーションを落とさず、練習中のバッティングピッチャーを務めたり、ボールやバットなどの道具管理や購入に積極的に関わったり、チームに貢献する道はないか考え続けた。ケガで戦列を離れたが、視野が広がったことが活躍の原動力にもなった。

「慶應は、昨年、一昨年の秋季リーグ戦でも優勝し、まさに強くなっている真っ最中。今が慶應の黄金時代を作れるチャンスだと思うんです」。優勝の立役者が先を見据えて、そう言い切った。

■高校生に言いたい「準硬式野球部でできることは、野球だけじゃない」
 筆者は、学業にも野球にもストイックに励み、マルチタスクをいとも簡単にこなす山賀を見て、準硬式野球部ならではの魅力を強く感じた。野球を他の活動と両立している部員は山賀だけでなく、他にも大勢いる。
 例えば、教員免許取得のための勉強に励む部員、司法試験などの国家試験を受験する部員、はたまたいくつものアルバイトを掛け持ちしながら野球を頑張る部員など、やりたいことと部活動のどちらにも手を抜かずに頑張る選手が多数在籍している。ほとんどの部員が部活動の他にやりたいことや目標を持ち、バランスを取りながら部活動に励んでいるのだ。

 大学進学を考えている高校生の中には、必修授業の多さなどで野球をあきらめてしまう選手もいるのではないだろうか。山賀はそんな高校生に向けて、実体験を踏まえてメッセージを送る。

「週3〜5日を練習にあてたとしても、高校生のように1日中練習することは少ないので、学業や教職、資格試験などと十分両立することができます。また、大学の夏、冬休みは長いですが、だらけずに部活動で規則正しい生活を送ることができるのはとても大きいメリットだと思います。準硬式野球部でなら、野球にも勉強にも、やりたいこと全部に熱くなれます。やりたいことが多すぎる高校球児の皆さん、準硬式野球部にぜひ来てください!」。

 山賀の例はほんの一例であるが、彼の言葉から準硬式野球に興味を持ってもらえたらうれしい。

自身初となる首位打者賞とベストナイン外野手を受賞した山賀。優勝の立役者となった

(文/井上瑠夏・慶應義塾大3年=横浜雙葉)