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高校生に伝えたい。「硬式野球と比べる必要はない」ということを/慶應大・佐藤遼平

 春季リーグ戦での慶應義塾大の優勝の立役者となった佐藤遼平(3年=桐朋)は 今季レギュラーとして定着し、対法政大第2戦で優勝を決める強烈な三塁打を放った。捕手のベストナインも獲得している。勝負強さを発揮した佐藤に、準硬式への選択とそこに至るまでの思考を聞いた。

■元ソフト部、ラグビー部がいる準硬式野球部で感じた「多様性」
 佐藤は、小学校時代にクラブチームで全国大会に出場したり、中学野球部はエース兼副主将、高校時代は主将を務めるなど、常にチームの中心選手として活躍してきた。そんな選手がなぜ、大学で硬式野球ではなく準硬式野球を選んだのか。

 佐藤は「全てを野球に注ぎ込んでレギュラーになれるかどうか、という硬式野球部ではなく、色々なことを頑張りながらも、野球にも少し力を入れれば1番になれる 環境である準硬式こそが、自分に向いていると思った」と語る。そして、入部してからは部員たちの多様性に驚いたという。

「慶應だけに目を向けても、高校時代ソフトボールやラグビーをやっていた選手や、海外で野球をしていた選手など、色々な選手が所属している。他大学に目を向ければもっとさまざまな個性を持った選手がいるはず。本当に面白い世界だと思います」と、ダイバーシティーを準硬式野球の大きな魅力の1つだと語る。多様な部員を受け入れることのできる土壌があるのだ。

六大学春季リーグで14年ぶり4度目の優勝を果たした慶應義塾大。佐藤遼平(3年=桐朋)は捕手のベストナインを受賞した

■チームで1番になりたい、からチームを1番にしたいへの変化
 「入部してすぐトップチームで試合に出させてもらったが、スタメンで出場することはできなかった。しかし、自分の実力とチームの実力を客観的に見て、足りない部分を分析してみたら、頑張り次第ではチームで1番になれると思った」と、佐藤は入部当初の心境を語った。 その言葉通り、出場した試合で着実に結果を残し、現在はチームの4番を打つまでに成長した。

 「チームの 中で1番上手くなることが最初の目標だった。しかし他大学と戦う中で、技術のレベルが何段も違う打者や、到底打てなさそうな球を投げるピッチャーにも出会った。それによって今は、チームで1番になることよりも、他大学の実力ある選手に追いついて追い越していきたいという気持ちに変わった。そしてチームとして もっと上にいきたい、という思いがモチベーションにつながりました」と話す。

今春のリーグ戦、対法政大第2戦で優勝を決める三塁打を放ち雄たけびをあげる佐藤遼平(3年=桐朋)

■「準硬式は硬式野球より弱いんでしょ?」と言われたら…
 高校野球で地方大会上位入賞や甲子園を目指して野球に取り組んできた選手の中には「準硬式野球ってなんだかカッコよくなさそう」、「硬式野球より弱いんでしょ?」と思う人もいるかもしれない。佐藤に聞くと「もちろん硬式野球部と比べたら野球のレベルは落ちるし、試合をしたら負けてしまうと思う。けれど僕たちは、硬式野球部に勝つことが目標じゃない。目標は、全国の準硬式野球チームの中で頂点に立つこと。同じ野球をする者として、硬式野球部に対するリスペクトこそあれど、戦っているフィー ルドが違うので、比較するのはあまり意味がないと思っている。硬式野球と準硬式野球は、全くの別スポーツとして考えている」と語る。

 準硬式野球部のほとんどは、過度な上下関係に縛られることや自分の時間を削られることがない。学業やアルバイト、将来のための準備などに使う時間も大事にしつつ、それでも真剣に野球に向き合うことができる。「全国大会優勝などという目標に向かってチームで頑張るという点に関しては、どの野球部であろうと同じだし、その熱量は変わらない。」「準硬式を『弱そう』と切り捨てるのではなく、ぜひ選択肢として見てみて欲しい」と呼びかけた。 そして「硬式野球部だとあまりチャンスがなさそうな人 や、高校野球であまり活躍できなかった人も、ボールが変わる準硬式野球では活躍できるかもしれない。高校時代にメンバー外だった人が、チームの中心で活躍できるかもしれない」とメッセージを送った。

今春のベストナイン獲得は、佐藤にとって全国の強豪チームを倒して1番になるための「はじめの一歩」となった

 筆者は、このインタビューを通して準硬式野球は「夢」がある競技だと改めて感じた。野球と並行して将来の夢を大切にできること、そしてどんな経歴の選手でも活躍のチャンスがあるという夢を見られることだ。ぜひ先入観を取っ払って、まっさらな気持ちで準硬式野球の試合を観てみてほしい。 

文/井上瑠夏(慶應義塾大3年=横浜雙葉)