大学準硬式最大のチャンピオンシップ「文部科学大臣杯第74回全日本大学準硬式野球選手権大会」は8月27日、レクザムスタジアムで決勝戦が行われた。連覇がかかる大阪経済大は10回表に勝ち越しを許し、日本大が10-9で勝利。2015年以来、7年ぶり6度目の優勝となった。来年、2023年の開催地は関西(球場は未定)。全国約280チームの頂点を目指す戦いがまた始まる。
■4時間14分の死闘。試合後は両者の目に涙
どんなに点差が離れていても、日大のベンチに「諦める」と言う言葉はなかった。5回終了で3-8。ここまで4試合中3試合を2ケタ得点で勝ち上がってきた前年覇者・大阪経済大の強さ。長打を絡めた得点力で中盤まで5点差と大きくリードされていた。
「繋いでいこう」
「まず1点!」
劣勢でも、ベンチで明るい声が交わされる。大丈夫、大丈夫。関西、東海、東都。これまで地区の優勝チームを接戦で打破してきた――。言葉に出さなくても、強豪ゾーンを勝ち上がってきた自信でスタンドとベンチの気持ちは一致していた。
6回、7回にミスに乗じて3得点。3点ビハインドの8回は途中出場の村上正悟(2年=日大豊山)、鈴木耕太郎(4年=多摩大付聖ヶ丘)、山本創也(2年=桜美林)らが右方向への集中打でさらに3得点。勝ち越しに成功した。しかしその裏すぐに追いつかれると試合は延長戦に。10回表、無死一、二塁で7番森公人(2年=日大豊山)のバントを投手がサードに送球するもセーフ。中島秀は一気にホームインし、これが決勝点となった。
「逆転の日大」を体現すべく、終盤に粘りを見せた日大。4時間14分の死闘を終えると、両者ともに涙を流し健闘をたたえ合う光景が見られた。
■勝つためのキツイ練習に根を上げない。素直な選手が多いチームだった(米崎監督)
米崎寛監督は「勝因は、選手たちの素直さ」と語る。大会は残暑の厳しい8月下旬に5日で5連戦の過酷な日程。この連戦に照準を合わせ、夏に2度にわたる3泊4日の強化合宿を決行した。「実戦練習はもちろん、ウエイトトレや、走り込み、ヘトヘトになるまで追い込んだ。勝利のために必要な、そういうキツイ練習に根を上げるどころか、素直に取り組んでいました。心のスタミナもついたと思います」。関口淳基主将(4年=千葉日大一)は「3年ぶりの合宿は『真面目』はやめて『真剣にやろう』が合言葉でした。みんなの個性をつぶしてはいけないと『4年生頼んだぞ!』と監督が言ってくれたことも原動力になった。春のプレーオフでダメな負け方をして、投手だけでなく捕手も一緒に走るなど皆んなで頑張る空気になっていった。スタンドからの応援も心強かった」と感謝した。そんな関口を「誰もが認める日本一の主将です」と中島健輔(3年=日大鶴ケ丘)もリスペクトする。マネージャーの今井瑠菜(2年=日大鶴ケ丘)は「4年生マネの(田口)琳珠さんの献身的な働きは凄い。尊敬する4年生との最後の試合になると思うと、寂しさもこみ上げてきます」と涙した。
「下級生主体のチームでしたが、伸び伸びプレーさせてあげる環境を4年生たちが作ってくれていた。この全日本大会が4年生の卒業式だと思っていたので全部員で香川に来て、応援や、試合のグラウンド整備など自分ができる仕事を見つけ、働いてくれました」と米崎監督。ベンチ入り30人中22人が出場した決勝戦は、日大準硬式野球部が積み上げてきた努力を発揮する総力戦になった。打席に立つ選手だけでなく、試合に出ていない選手が太鼓をたたき、メガホンを振って仲間を応援し続けた。
コロナ禍に翻ろうされた選手たちが、大事なことに気づき、自分たちの手で栄冠をつかんだ夏になった。
(文・写真/樫本ゆき)