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プロ7球団注目も、主語は「俺」じゃない。中央大エースの矜持

 準硬式野球の全国大会・第77回全日本大学選手権大会(8月19日~、北海道・円山球場ほか)への出場権をかけた大一番。前年覇者の中央大は、関東学院大(神奈川リーグ1位)に7-0(7回コールド)で勝利。2012年以来となる連覇への挑戦権を手にした。

関東大会3位から予選会を突破し、8月の全日本選手権出場を決めた中央大。連覇の期待がかかる

 春の関東大会では、準決勝で明治大2-4の惜敗。中央大は「守備から崩れた」と言われる試合でリズムを失い、決勝進出、さらには全国へのストレート切符も逃す形となった。

 悔しさの残るその敗戦から、チームが見つめ直したのは「基本」だった。
「守備から攻撃という自分たちのリズムをもう一度つくるために、基本練習を徹底しました」。相野七音主将(4年・花巻東)はそう語る。関東大会敗戦後、特に守備にフォーカスした練習にチーム全体で取り組んだという。「守備練習は、どこよりもやってきた。だから今日は自信があった」と胸を張った。

 試合は、相手の守備ミスに乗じて序盤で2点を先制。その後も畳みかけるように得点を重ね、終わってみれば7ー0。課題としていた「守備から攻撃へ」というテーマを、そのまま実践するような試合内容だった。

 先発を託された大山北斗投手(4年=興南)は、7回を投げ抜いて被安打2・無失点と完璧な内容。「今日はインコースをしっかり突くことができた。コントロールも良くて、思い通りに投げられました」と、穏やかな笑顔で振り返る。昨年の日本一投手でもある右腕は、プロ7球団が視察した存在。選手権でもチームの大黒柱として君臨する。

最速151キロの速球を軸に、緩急を使って関東学院大を7回2安打無失点に抑えた大山投手

 選手権出場を決めても、大山投手は「チームの勝利が何より大事」と語る。そして、注目されることへの重圧はないと語る。ある仲間の存在があるからだ。


「高校(興南)の同級生で、亜細亜大学の硬式野球部で頑張っている山城京平くんが、自分にとって大きな存在なんです。同じ時期に頑張っている姿を思い浮かべると、励みになります」。昨夏の選手権で151キロを計測した大山投手は、今秋のドラフト候補に挙げられている元チームメイト・山城投手の名を口にし、謙虚に話した。

「去年は優勝のマウンドに立たせてもらった。今年も勝って、最後までみんなと笑って有終の美を飾りたいです」。大会前には恒例の秋田・三種町キャンプが控える。相野主将も「あの苦しいキャンプで自信をつけることが優勝への準備になる。乗り越えて全国で戦う力を養いたい」と、すでに視線を先に向けている。

 さらなる高みを目指す二人の胸には、先輩の栄光を引き継ぐ王者の矜持が宿っている。

名門・花巻東から準硬式の世界に挑戦した相野選手。主将としてこの夏、集大成を見せる

【記者の視点】「大学野球って、家族まで巻き込めるんだ」

高校野球に比べて注目される機会が少ない準硬式野球だが、
ここには「大学でも野球を続けている」選手たちのリアルな姿がある。
プロを夢見る者もいれば、学生生活との両立を選ぶ者もいる。
硬式野球と共通している点は、自分の意思で大学野球を選択し、
家族に胸をはって報告できるよう、日々努力を重ねている点だ。

試合が終わったあと、見知らぬ女性が話しかけてきた。
「いつも応援ありがとうございます」と。
面識はないが、選手の母親のよう。昔から筆者のことを知っているような親近感で微笑んでくれた。そして続けた。
「このチームいいんですよね。どの選手も礼儀正しくて、みんなかわいい。ほかの保護者たちと『ハッシュタグ 寿命が伸びてる』って言い合ってるんです(笑)」
試合後、何人もの保護者が選手たちを囲んで、笑ったり、写真を撮ったり、監督とも普通に談笑してる。
この光景、どこかで見たことある。そうだ、夏の高校野球の光景。
でもこれは大学野球。こんなことって、あるんだな。

正直、大学スポーツって、「自分の世界感」が強くて、家族との距離は離れていくと思っていた。

でも、中央大学の準硬式野球部はちょっと違った。
応援を一緒に楽しんでいいんだよという空気がある。
それはたぶん、チーム全体に「誰かをちゃんと迎え入れる力」があるからかもしれない。
「誰かと一緒に喜ぶ」をちゃんとデザインしてるチームは、強い。

「応援されるチームになろう」って、このことなんだろうな。
#寿命が伸びてる。…思わず、筆者もSNSで呟きたくなっている。

(文・写真/樫本ゆき)