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準硬式からMLB入りを目指す異端児。 獨協大・小林拓斗は、先駆者となるか?

「準硬式野球部」の経験を足掛かりにして、MLBの夢に向かおうとしている選手がいる。獨協大の小林拓斗(3年=二松学舎大付)だ。小林は東都3部リーグの獨協大でプレーし、6月に福島で行われた「JUNKOオールスター大会2023」で東都B選抜(3・4部)に選出。1・2部編成の東都A選抜に勝利、新関東選抜戦では2点タイムリーを打つ活躍で準優勝を修めた。準硬式野球は金属バットを使用するが、小林はこの大会で木製バットを使用した。そして試合後、やり切った表情で大学野球引退を打ち明けた。

「このあと、アメリカの大学に編入してMLBを目指します。大学野球最後の大会でいい思い出ができてよかったです」。

 驚きのMLB挑戦宣言だった。後日、小林と準硬式野球の関わり、そして今後の夢を聞いた。

JUNKOオールスター大会2023に東都B選抜で出場。決勝で六大学選抜と対戦した小林拓斗(獨協大3年=二松学舎大付)

二松学舎大付で巨人・秋広と同級生。2020年、代替大会世代
 埼玉出身の外野手。中学時代は上尾シニアで春夏全国出場。高校は甲子園常連校の東東京・二松学舎大付に進学した。現在巨人で活躍している秋広優人が同級生で高3夏は「3番レフト小林、4番ピッチャー秋広」のコンビを組んだ。1学年下には秋山正雲(ロッテ)がいる実力あるチームだったがコロナ禍の影響で夏の選手権大会が中止となり、東東京ベスト8で高校野球を引退した。その秋、秋広がドラフト5位で巨人に入団。華やかにプロの道に進む秋広を見ながら、小林は野球を諦める。理由はケガだった。

「高2の冬に腰痛になり、医者からこのまま続けると大学では硬式野球はできないと言われました。どうしても甲子園に行きたかったので、高校野球で野球をやめるつもりで痛みを我慢して続けました。大学の硬式野球部のお誘いもいただいたのですが指定校推薦で獨協大を選び、もう本格的な野球は諦めようと思っていました」

 入学後、準硬式野球部があることを知り入部した。東都3部リーグに所属し球場練習は硬式野球部のグラウンドを借りられる週1回のみ。チームカラーはのびのびとした雰囲気で「この環境ならケガを治しながら野球ができる」と思ったからだ。練習時間は短く、自分で考える時間が増えた。リハビリのトレーニングをしながら、食事やサプリメントで体質を改善し、体重は11キロ増。体脂肪も11%まで落とした。休養を得たことで腰痛はプレーに支障が出ないほど、回復した。「もう一度、本気で上を目指そうかな」と、気持ちが前に動き出した。

「大学2年の秋に木製バットで場外ホームラン(城西大戦)を打ち、打率.420(リーグ2位)を残しました。このあたりで気持ちが変わり、社会人野球やアメリカ大学野球の情報などを自分で調べるようになりました。そのあと人の縁で、MLBが参加する3月のスプリングキャンプに参加してみないかというお誘いを戴き、思い切って、挑戦することになりました」

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 ドジャース、パドレス、ロイヤルズ、エンゼルスが参加するキャンプに、日本人選手として参加した。様々な環境でプレーする選手20人の中で、準硬式は小林だけで、しかも最年少。「最初はなめられていると感じた」が、2試合目にスタメンで3安打を記録すると周りの目が変わった。ドジャース戦では左中間にホームランを放ち、13試合34打数12安打。打率.352の好数字を残して自信をつけた。

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返済不要の奨学金がある大学を希望
「MLBに挑戦したい。そのために結果を残したい」。アメリカの大学に編入できることを知った小林は、今年10月に部を引退。編入は決定し、来年1月の渡米に向けて、自主トレーニングを続けている。現在はいくつかの候補の中から大学を選んでいるところだ。家族には最初は反対され保留にされたが、強い思いで説得。返済不要の奨学金300万円の大学からのオファーも受け、さらに自分を売り込んでいる。2024年7月のドラフトが小林にとって渡米後初の挑戦となる。

 今夏、オレゴン大の西田陸浮が日本人として10年ぶり5人目のMLBドラフトにかかったが、準硬式からは過去に例はない。
 小林は「準硬式から挑戦することは準硬式野球の発展にもつながるはず。準硬式からでもMLBを目指せるんだというところを見せたい。目標はもちろん『第1号』になることです」と言い切る。
 高校時代のケガ、同級生のプロ入り、一度はあきらめた夢。「大学で準硬式を選んだことでケガが回復し、視野が広がった。チャレンジする気持ちがわいた」と小林は話す。そして言い切る「自分は、準硬式でよかったです」とも。

 高いハードルであることは間違いないが、失敗を恐れず挑戦する小林。そこにあるのは幼少期に思い描いていた純粋な野球少年の憧れそのものだ。最高峰メジャーへの挑戦に、硬式、準硬式は関係ない。

文・写真/樫本ゆき(動画は本人提供)

50m6秒、遠投119mの身体能力で高校時代は巨人・秋広優人とクリーンアップを打っていた小林拓斗(獨協大3年=二松学舎大付)

ケガで一時は本格的な野球を諦めたが、準硬式と言う環境を生かしてアメリカの大学でMLBに挑戦する


プロフィール●こばやし・ひろと
2002年6月5日生まれ、埼玉県出身。上尾シニアで春夏全国大会出場。二松学舎大付では外野手として巨人・秋広優人と主軸を任される。2020年東東京・代替大会で8強。獨協大準硬式野球部に入部し、2年秋に3部リーグ2位の.402の打率を残す。3年夏に引退しアメリカの大学に編入予定。準硬式初のMLB選手を目指す。50m走6秒、遠投119m。身長180㎝、体重86㎏。右投右打