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東海地区が誇る超敏腕マネージャーの道程 愛知大・近藤みのり

 第74回全日本大学準硬式野球選手権大会と清瀬杯第54回全日本大学準硬式野球大会が終わり主管地区である四国地区、東海地区の方々には畏敬の念を抱いている。そこで、このまま終わらせてしまって裏方の記録がないというのはあまりにも寂しいと感じ、筆を執った次第である。

 今回は全日本学生委員でもあり、清瀬杯開会式で始球式も務めた東海地区・愛知大学準硬式野球部の女性マネージャー近藤みのり(4年=名古屋市立桜台)にお話を伺ってきた。
 近藤は準硬式野球の発展を積極的に進めている人間で、その仕事ぶりたるや全国屈指とも言えよう。しかし人柄は気さくそのもので俗にいうコミュ力お化けだ。そのギャップに“記者”として惚れ込んだ私はぜひ近藤を記事で取り上げたいと思った。話を聞くと、近藤はやはり心の中に信念を持っていた。ぜひ最後までご覧いただきたい。

 近藤は高校時代ダンス部として学生生活を謳歌していた。しかし大学に入り自分がプレーヤーとして活躍するより「支える側」になろうと思ったという。ただ当初の準硬式野球との出会いは今の活躍ぶりとは裏腹に、信念を伴ったものとは言えなかった。

「週3の練習ですし、雰囲気も良くて、休みたいときは休めるという環境に惹かれて入りました」。割と一般的な選び方であるようには思う。しかし全日本学生委員として活躍するような人がまるで準硬式野球をバイト選びのような感覚で選んでいてどこか可笑しかった。

楽しい野球を保ちつつ全日本出場を勝ち取った愛知大学準硬式野球部

 しかし準硬式野球が近藤を変えたのか、近藤が変わったのか、持ち前の名古屋魂に火が点くのはそう難しいことではなかった。大きく2つのきっかけがあった。
 きっかけの1つは、知名度の低さ。
「部活のマネージャーをしていると友達に話しても、誰も準硬式野球を知らないんです。準硬式野球って言っても伝わらないのがどこか寂しいというか悔しい気持ちがありました」。2つ目のきっかけに“バイト感覚”で入った準硬式野球にも愛着が湧いてきたというところにあるだろう。硬式野球とは違う魅力にも気付き、良いスポーツだと感じ始めたという。だからこそ、その知名度の低さが歯痒くてたまらなかったのだ。

「もともとラクロス部のマネとも迷っていて、知名度ではそのラクロスに劣っている現状がありました。当然、準硬に携わっているからにはラクロスやアメフトのようなスポーツに知名度で追いつきたいという気持ちが芽生えてきました。もちろん自己満足の側面もありますが、硬式と同じくらい有名になって良いくらい魅力のある野球だと考えるようになりました」。

 一度火が点けばそこからは早かった。まず近藤はチームのInstagramの運営を1年秋から始めた。一度記事を読む手を止めてぜひ愛知大学準硬式野球部のInstagramをご覧いただきたい。

www.instagram.com

 愛知大学以外の準硬式野球部Instagramを見たことがある方はすぐ愛大の“異質さ”に気付くと思う。これは近藤の考えあってのことだ。
「正直バッティングの写真を載せても大きな違いはないと思います。それより私は選手の表情、顔を映してあげたいと思うのです。愛大の選手は本当に面白いのでそれを発信したいという想いがありました」。
これは決して近藤の自己満足には留まらなかった。
「先輩に褒めていただきましたし、実際フォロワーも期待を遥かに超える程に増えました」。
 このようにInstagramの運営方針を変えたきっかけを近藤はこう語る。
「最初に何かを成し遂げたいというマインドが自分の中にあります。二番煎じではなくパイオニアになることに対して大きな価値があるのだと考えています」。
 準硬式野球の新陳代謝はこのようにして行われている。準硬式野球の規模やレベル感は決してチープなものではない。しかし同時に知名度が低いというのも現状だ。
読者の方々はこの現状をどうとらえるだろうか。

愛知大学準硬式野球部のモットーは楽しく野球をすることだ

 準硬式野球の“ブランド”や“体裁”を重んじて動きが取れない、又は取る必要がないと思う方もいらっしゃるだろう。しかし近藤はそのような道は選ばなかった。愛知大学準硬式野球部や東海地区は近藤のアバンギャルドな発想からなる活躍を歓迎した。
「愛大は練習の日程やメニュー、指揮まで学生がとります。何より愛大は自分で考えに考えを重ねて野球に向き合っています。愛大は『野球を楽しんでいるから勝てる』と思うのです」。近藤の活動も自身で考え、楽しんでいるからこそ成り立っているものではないか。やはりマネージャーも部員の一人だ。愛大スピリッツがしっかりと刷り込まれている。
 東海地区もまた他地区にはない寛容さを持つ。
「ある程度“緩さ”があり、自由度はかなり高いと思っています。良い意味で『何をやっても許される雰囲気』です。だからこそ自分で考えて動くことが出来ますし、何より『思考が行動に直結』します。ですからそこに自ずと責任とモチベーションが生まれるのだと考えています」。学生主体とはまさにこのことを言うのだ。学生主体とは名ばかりに雑務を押し付けるという事例もしばしば耳にする。しかし東海地区、愛知大学準硬式野球部では真の学生主体が存在している。

 東海地区、愛知大学準硬式野球部で存分に力をつけた近藤は満を持して全日本学生委員になった。そこでの手腕はやはり目を見張るものだった。

 ただ近藤の野望は止まらない。
「全日本学生委員はまだまだ過渡期と言えると思います。大会の広報にもまだ伸び代を感じますし、大会運営やSNSが盛んでない地区をどのように巻き込んでともに成長できるか。また全国から選ばれた学生が集まるオンリーワンの組織ですから、全日本学生委員の役割の細分化をすることでより有効に機能することが出来ると考えています」。

 要するにもっと出来ることはある、ということだ。中途半端にならないならどんどん新しいことを始めた方が良いと語る。さすがは東海地区や愛知大学準硬式野球部で培われた前衛精神の持ち主だ。考えがキレキレである。

気さくで明るい性格で東海地区を牽引している

 準硬式野球の強みは『未完成』にあるという。どんなことでも試せる、全体としてチャレンジしようとする姿勢がみられる。これから入る人が「これをやりたい」と言えばできる環境さと寛容さを持っている。近藤は確実に全日本大学準硬式野球連盟の今後進むべき道標を打ち立てた。

 ただ忘れてはいけないのは道中で迷っても、道標に従わなくても良いという点だ。やりたいことが別にあるなら、信じる道があるならその道を進めば良い。近藤が本当に全日本大学準硬式野球連盟に残した財産なのかもしれない。近藤が残した挑戦の精神を忘れずに全日本学生委員は進んでいくのだろう。その行方を楽しんで見たいと思う。

今後の準硬式野球に『実り』をもたらしてくれた近藤に感謝と敬意を表したい。

 

(文・山田力也)

選手の笑顔が輝く学生主体の全員野球