JUNKOWEB

143キロから151キロへ。中央大が描いた大山北斗育成プラン

3月10日に「第67回関東地区大学準硬式野球選手権大会」(決勝24日、横須賀スタジアムほか)が開幕する。65チームが出場する関東最大の大会で、連覇を目指すのが中央大だ。新4年エース・大山北斗投手(興南)は高校時代、沖縄大会で沖縄尚学を4安打完封した右腕。大学準硬式野球の世界でさらに進化を遂げている、世代NO1の注目選手だ。昨年、全国制覇を果たした中央大・小泉友哉監督に話を聞いた。

 大山投手の存在を知ったのは、沖縄大会の報道でした。興南のピッチャーだった彼が、私(小泉監督)の母校である沖縄尚学を4安打に抑え、完封勝利を果たしたので。「一体どんな球を投げるんだろう」「どれほどの伸びしろがあるんだろう」と興味を持ったことが始まりでした。そして、彼のような逸材をぜひ可能性の延ばせる準硬式野球で育ててみたいと思いました。


 良縁に恵まれたと思います。


 興南高校の島袋洋奨コーチ(元ソフトバンク投手)が中央大学(硬式野球部)のOBであることで、繋がりを持たせていただきました。島袋コーチが、同じ目線で目標向かって歩んでいく指導をしており私たち中央大準硬式野球部のことを「4年間で成長し、人間としても大きくなれる環境である」と伝えてくれていたのです。
 私たち指導陣は、大山投手とそのご両親に、大学準硬式野球部の雰囲気や育成方針を丁寧に伝えました。日本一を目指す集団であること、そのための目標設定や、心身を鍛えるための練習があること。ご家族にも説明資料を見てもらい、本人が納得する形で入部を決断。中央大学での挑戦を選択したのです。

昨年の秋季リーグ戦では5勝2敗、防御率0.51で最優秀投手賞、ベストナインの2冠を獲得

「なんくるないさ~精神」で甘やかさない

 最初は苦労の連続だったと思います。

 沖縄から上京し、初めての東京での生活ですから。私自身も、沖縄尚学から中央大準硬式野球部に入ったときの気持ちを思い出しました。慣れ親しんだ土地を離れるというのは簡単なことではありません。気温の違い、文化の違い。特に沖縄の温暖な気候と、東京の寒さは大きな試練だったと思います。沖縄気質である彼の感性を壊さずに、どう馴染ませていくか。周りの仲間たちの理解にも助けられたと思います。持ち前の人懐っこさから、しだいにチームメイトと打ち解けていきました。
 
 可能性を秘めた彼の才能を想像し「組織作りのレールに、どう融合させていくべきか」と私も指導法を模索しました。そこで助けられたのが、沖縄出身の先輩たちでした。先輩後輩のコミュニケーションが緊張と緩和のいいバランスを生み「なんくるないさ〜」の精神で甘やかすことなく、しっかりと鍛え上げる関係となっていったのです。下級生の頃は「やみくもに練習するのではなく、目的を持って取り組むこと」と徹底的に言い聞かせてきました。学年が上がるうちに、責任感がつき、最上級生になった今では、大山投手自身が「自分が勝つ」ことよりも「チームを勝たせること」を意識するようになりました。これは、彼の成長を象徴する大きな変化だと思います。


 入学当初のストレートの最速は143キロでしたが、今では151キロにまで伸びました。球速の出にくい準硬式で150キロを越えるのは異例のことです。

 しかし、本人も指導者も、まだ満足していません。
彼にはまだまだ伸びしろがあると思っていますし、私自身もさらなる高みを目指してサポートするつもりです。(談)

最上級生になり、大山投手自身が「チームを勝たせること」を意識するようになった


*    *    *    *    *    *

 人懐っこい性格で周囲に支えられながらも、自ら努力を重ね、一歩ずつ前に進む大山投手。
彼の可能性はまだ広がっています。
大山投手の成長は、単なる球速の向上だけではありません。チームを勝たせる投球とは何かを考え、行動しています。目の前の課題に真摯に向き合い、目的を持って努力すること。それが、自身の成長となり、仲間にも良い影響を与える。
野球に限らず、どの世界でも共通する大事なことではないでしょうか。

(構成/樫本ゆき)