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「ゴールしないことがゴール」。 準硬式✕高校野球PRレポート(後編)

「準硬式を高校生に知ってもらおう!」。関東地区大学準硬式野球連盟の3名の学生委員と、帝京大の選手らが準硬式野球の普及活動の一環で、神奈川県立市ケ尾高校野球部を訪問。高校生に準硬式野球の魅力をPRした。青山学院大4年の山田力也記者の前後編レポートの後編。前編はこちら

「まず、準硬式野球が硬式野球を超えることは現状考えられないので、準硬式野球が尖り続けることは出来ると思っています。また、甲子園大会もPRという側面より、高校生がもう一度甲子園でプレーする機会を設けたいという願いの元で取り組んだものだと解釈しています。学生やその親の希望を叶えるという面が強いと私は思っています」と、帝京大・浅野修平監督は話す。確かに硬式野球のOBやスポンサー、歴史から言って準硬式野球が硬式野球を「超える」ことは現在では想像しづらい。尖り続けられる準硬式野球だからこそ、我々にしかできないことが多くあるのだという。

 関東地区の学生委員たちと交流した側はどう思っているのか。市ケ尾の菅澤悠監督は「正直、実利どうこうは自分自身あまり気にしていません。いつもと違う環境に学生が身を置くことに大きな価値があると思っています。ボールの違いを気にするのは投手だけで、野手には準硬式ボールをどんどん投げさせています。バウンドの跳ね方や滑りやすさが変わると言われますが、グラウンド状況によって跳ね方が違うことも当たり前ですし、ボールの状況も天候次第で変化しますので、ボールに関してもいつもと違う状況で練習することに意味はあると思います」と話す。
 菅澤先生の場合、意外にも準硬式野球という「異質」なものを取り込むことに対して抵抗が少ないそうだ。菅澤先生のお言葉には説得力があり、準硬式野球にとっては力強い意見だったに違いない。

市ケ尾の選手と会話をし、準硬式に対するイメージや疑問をヒアリングする山田記者

■高校生との交流のその先に見据えるもの
 浅野監督に今後の準硬式野球の展望を聞くと「そもそも準硬式野球が少しずつ知名度やプレゼンスを向上させているのは準硬式野球が成長したわけではなくて、社会が求める形に適合していたからだ考えています。そのため今後、準硬式野球がどう動くかが非常に重要だと考えています。マイナーであり、立場的に中途半端とされることが故の『動きやすさ』があると考えています。準硬式野球はあらゆる変容を受け入れる準備があります。今後どうしていくかは学生委員の方々をはじめとするステークホルダーが決定していくのだと思います」と話した。
 浅野監督は「ゴールしないことがゴール」ということも仰っていて、今までコントロールできなかった外的要因を、広報活動をはじめとする活動をし続け、コントロールできるようにすることが重要だとも語った。準硬式野球がマイナーだと思う点に関して問うと「準硬式野球は明らかにExitが無いです。皆が皆ではないですがわかりやすい部分として硬式はプロや社会人、軟式は草野球という進む道が残されていますが、準硬式野球にはそれが無い。だからこそ競技としてではなく『場』として見るべきだと考えています。その『場』を提供する際に、尖ることが出来る準硬式野球は大きな強みを発揮すると考えています」と話した。

帝京大・浅野修平監督がなぜ準硬式の広報活動に尽力するのか? 山田記者の取材に真摯に応じてくれた

 

 準硬式野球を「場」として捉える考えは以前取材した日本大コーチの杉山智広さんも持たれていた考えだ。「場」を提供しそれを選手が活用し、野球以外の付加価値をつけるというものだ。この文脈にダイバーシティやインクルージョン教育があり、社会に対してアクションを起こせるのが準硬式野球だと語る。

「硬式を諦めた人が選ぶ場」というイメージもあった準硬式だと言うが、学生委員のPRを聞いて可能性を感じたと言う

 今回取材をして、高校生との交流の表面的な部分ではなく、「準硬式野球だからこそできること」として高校生との交流があるのだということを理解できた。
 また、浅野監督の思いや考えがどれだけ帝京大の選手に好影響を及ぼし、野球との相乗効果を生み出すか楽しみでならない。今後も準硬式野球は試行錯誤をしながらどこかでまた小さな一歩を踏み出していく。
 この場を借りて菅澤先生はじめ、市ケ尾高校の皆様に最大限の謝意をお伝えしたい。

エース山﨑陽平(4年=横浜隼人)など、神奈川の高校野球出身者が多い帝京大。今回訪問した市ケ尾の選手にとって身近に感じたはずだ

(文/山田力也・青山学院大3年=成蹊、写真/亀谷・専修大1年=専大付)