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「準硬式に競技的な価値は少ない」。ではなぜ広めるのか? 準硬式✕高校野球PRレポート(前編)

「準硬式を高校生に知ってもらおう!」。関東地区大学準硬式野球連盟の3名の学生委員、帝京大の選手らが準硬式野球の普及活動の一環で、神奈川県立市ケ尾高校野球部を訪問。高校生に準硬式野球の魅力をPRした。青山学院大4年の山田力也記者の前後編レポートの前編をお伝えする。

 2月19日、関東地区準硬式野球連盟が神奈川県立市ケ尾高校を訪問し、菅澤悠監督を通じて準硬式の普及活動を企画した。この日は帝京大の山崎陽平(4年=横浜隼人)も同席し、高校生に準硬式の魅力を伝えた。近年、準硬式の学生が高校の野球部員と一緒に練習をしたり、野球談議をすることは全国的にも広がってきているそうだ。学生委員が直接高校生に交流を図ることは大きな道の小さな一歩を踏み出したと言える。「大学」準硬式野球であるので、大学を次に控えた高校生にPR活動をするのは至極当然の流れだが、その障壁が多くあるのだ。
 今回PR活動を行ったのは山根祥太(3年=高崎高軟式)、井上佳乃(1年=真和)、亀谷七海(1年=専大付)だ。帝京大の練習参加を見学しながら、高校生に進路や準硬式のイメージを聞き込み、潜在的ニーズを把握した上で今後の広報活動に活かす予定だ。練習後には準硬式野球のPR(口頭での説明)を行い、高校生からの質疑に応答した。初めての試みで慣れない様子だったが、0から1の状態にしたことに非常に意味がある。今回の経験を活かし、他の高校にも交流会を開けたらと意気込む。

市ケ尾で準硬式をPRする浅野修平さん(帝京大監督)。自校ではなく「準硬式」の可能性について選手たちに熱弁した

■準硬式を知ってもらうことで高校生が意味を見出せば
 高校生への準硬式普及活動を続けている帝京大の浅野修平監督に話を聞いた。帝京大は東都1部リーグ所属、昨夏の全日本選手権で初出場4強入りしたチームだ。
 浅野監督は「高校生の進路の中に準硬式野球がないことにとても違和感を覚えました。PRといった仰々しいものではなく、"知ってもらうこと"に意味を見出していて準硬式野球をやってもらうように働きかけようという魂胆は特に無いです」と話す。

東都2部リーグから勝ち上がり、昨年は創部初の全日本選手権出場を果たした帝京大。主なOBに元楽天の鶴田圭祐投手がいる


 帝京大は強豪校なのだから、新規部員勧誘の意図がない交流に精力的に取り組む意味が私には理解しがたかったが、浅野監督は「あくまで私の見解ですが、競技的な価値は準硬式野球は少ないと考えています。それに加えて、野球をすることだけが野球を上手くする事ではないと思っています。例えば、バイトをすることで野球に対する熱量が増すこともあるでしょうし、こと準硬式野球において、野球だけをやることに意味を見出していません」と説明した。
 この回答で私の謎は解消された。そもそも準硬式野球に野球としての価値というよりは、社会経験や野球以外のことも含めて学生に付加価値を提供出来れば、という想いがあるようだ。ただ、野球がどうでも良いというわけでもなく、高校生との交流やはたまた野球以外の活動が野球に対しても好影響を与えるという見解を持っているようだ。
「高校生に対して、自分(学生)が準硬式野球と出会ってどのように変化したかを言動や行動で見せてほしいという狙いがあります。その中で、もちろん目の前に進路が迫る高校生に対して、どう思われるかで準硬式野球が選択肢に入るかどうか決まる訳ですから、副次的な効果としてPRが出てくるというイメージを私は持っています」と続けた。
 勘違いして頂きたくないのは、高校生も真剣に高校野球と向き合い、限られた時間の中でそれぞれの目標に向かって相当な努力をしている。その貴重な時間を使っているのだから大学生だけが利益を享受できれば良いなどとは当然浅野監督も思っていない。

帝京大の練習は「あるものを生かす」。学生主導の工夫した練習メニューが土台になっている

「元をたどれば、部活動は教育の一環ですから、野球の技術や学問の面で進路の相談に乗るといったリターンは出来る限りするのが礼儀だと思っています。例えば強豪高校と試合が組めない高校も沢山あるので、大学生の140キロ超の投手を見てもらうことは良い経験になると思います。"準硬式野球を知ってもらう"ことと、"Giveの精神"の両軸で高校生との交流を解釈しています」。

 また出向く高校についても特に制限をかけているわけではなく、野球のレベルが高いかどうかも気にしていないという。「高校のレベルは千差万別で、行ってみないと分からないというのが正直なところです。ただ、そこは重要ではなくて競技力が高いからと言ってそれが直接存在価値になるとは全く思っていないですし、先程申し上げた通り、準硬式野球を知ってもらうことを重要視しています。根底には準硬式野球という選択をしたら人生を豊かにすることができるという自信があるので、積極的に活動を行うことができています」。

関東地区連盟の学生委員が高校に出向き準硬式をPR。現場で高校生と対話し、よりよい連盟づくりに生かしている

 ここで少し意地の悪い私は変な思考を巡らせてしまった。今、高校野球と交流ができているのは準硬式野球がマイナーだからこそ、であるといえる。大学硬式野球のように良い意味で失うものが無く、格式が低いからこそ、出来る活動だ。しかしながら我々準硬式野球は甲子園での東西対抗日本一決定戦を行うなど「有名になる努力」をしている。この有名になる努力が実現すれば、準硬式野球の格式は高くなり、「動きづらく」なる。高校生との交流もそう簡単にできなくなるかもしれない。この両者はトレードオフの関係になるのではないかと考えてしまい、浅野監督を少し困らせようとしてこの疑問をぶつけてみた。すると・・・。(後編へと続く)

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