“JUNKOWEB”

僕がここで輝ける理由~ 関東JUNKOオールスターIN伊豆/コラム 立教大学・吉野剛史

吉野剛史(立教大・3年=蕨)

初めて味わう喜びだった。野球人生最高と言っていいくらいだと思った。
「優勝という経験が今までなかったので、こんなにうれしいんだって初めて思いました」。初代王者となった東京六大学選抜の優勝に、吉野剛史(立教大・3年=蕨)は、興奮を隠すことなく仲間と飽き合って喜んだ。

決勝戦では2安打21番ファーストで出場した決勝戦は、今まで通り、自分の役割に徹した。

 1番ファーストで出場した決勝戦は、今まで通り、自分の役割に徹した。
2点を追う3回は三塁方向へ送りバントでつなぎ、5回はフルカウントから高めの球を見送って2者連続四球をもぎ取り、逆転のホームを踏んだ。
 6回、1死二、三塁は「初球を逃さないように」(吉野)フルスイングし、センターオーバーの2点タイムリーに。8回は無死一塁から、逆方向へ捌いて好機を繋げた。広角に打ち分けるミート力で、今大会2試合8打数5安打3打点。6割2分5厘の高打率を残し、大会最優秀選手に選ばれた。所属する立教大は今春のリーグ戦で5位に甘んじたが、吉野はその中で打率3割8分5厘を残してリーグ首位打者に輝いている。
「1週間前の法政大との練習試合で4打数ノーヒットに終わり、そこからの練習で修正して臨んだ。個人的にも結果を残せてうれしいです」。初めての選抜チーム入りだっただけに、並々ならぬ思いがあった。

六大学選抜として初の選抜入り。他チームの選手と積極的に交流し、高め合う姿があった

■スイングの音が打撃のバロメーター
 開会式を終えた日の夜。ホテル前で素振りをする複数の選手の中に、吉野がいた。名前も聞かずに声をかけ、しばらく素振りを見ていてもいいかとお願いすると、快く返事をしてくれた。

“ブンッ、ブンッ”

力強いスイング音が、カエルの鳴き声が遠くに聞こえる薄暗い駐車場に響いた。「いい音だね」と言うと、その選手は動きを止めて笑顔で言った。
「自分は素振りの音がバロメーターなんですよ。音が鳴るということはそれだけスイングが速いということ。速いということはいいスイングができているということ。素振りはそれを知るための大事な目安なんです」。

――今日の音は何点くらいの音ですか?

(履物が)サンダルなので、60点くらいですかね。家でシューズを履いて振ると、そのときは「ブンッ」ではなくて「ザンッ」って感じの音が鳴るんです。高校生の頃よりも、いい音が出るようになりました。

「空気を切り裂くような音」とその選手は言った。そう言えば伝説の強打者・松井秀喜氏が「いいスイングの時は、高い音がする」と言っていたような。何かの記事で読んだことがあると思い出した。体格的にタイプは違うように思えるが、「ブンッ」ではない、自分にしかわからない僅かな音の違いがあるのだろう。「いい音」を求める彼の素振りはその後も長く続いた。この選手はいままでこうやって、何度もバットを振って試合の準備をしてきたのだろう。翌日、同じ場所に行ってみると、やはり同じ場所でバットを振っていた。交流試合のようなこの大会でも、結果を残したいという貪欲な姿勢が感じ取れた。

後で名前を聞くとその選手は「吉野です」と答えた。春のリーグ戦首位打者を取ったと言う。埼玉の公立、蕨(わらび)高校から1浪の末、立教大に入学。なぜ大学で飛躍することができたのだろう? 素朴な疑問に、はっきりとした口調で答えてくれた。

「高校は甲子園に出るような高校じゃなく、県大会で1回戦負けするようなチームでした。甲子園に出るような高校と試合する機会もなく、高いレベルを知ることもありませんでした。それが大学に入って準硬式野球部に入ったら、甲子園に出た選手がリーグにいっぱいいて。そういう環境が、無名校出身の僕にとっては新鮮で、モチベーションにもなったのです。自分で考えて練習した結果、首位打者になれました」

「1回戦で負けるようなチーム」の選手が、六大学の首位打者、オールスター戦のMVPに。夢があるな…、と胸が熱くなった。どんな選手にも等しく、可能性を伸ばす場を与えてくれるのが準硬式だ。やらされる野球ではなく、自分の心で動いた練習をすれば、大学生からでも成長できるのだ。それを吉野は体現している。

「硬式じゃなくても、準硬式は面白いですよ。バイトなどもできますし、大学生活が野球だけにならないところが楽しいですよ」

高校野球を終えた選手であっても、輝きの種は、誰もが自分の中に持っている。それを咲かせるのが、準硬式と言う場所であってほしい。

「準硬式野球は面白い」。その思いは、吉野の全力プレーに込められている

(文・写真/樫本ゆき)