10月17日〜24日に開催された「第16回関口杯東北地区大学準硬式野球トーナメント大会」は、東北学院大学(以下、学院大)が4年ぶりの優勝を飾り閉幕した。コロナ禍でチーム運営が難しい中、短期間でチームをまとめ上げ優勝に導いた、学院大キャプテンの小林将希・3年(柴田高校出身)を取材した。
前例のない世代交代
小林がキャプテンに就任したのは今年の7月。7月に全日本大会の中止が発表され、前例のない世代交代に困惑しながら新チームを迎えた。
新チームが始動するも、学校側の予防策により全体練習ができない日々が続いた。8月に全体練習が許可されるも、対外試合の許可は下りなかった。
他大学も同じような状況で、毎年行われていたリーグ戦も中止が決定した。
少年野球、中学野球、高校野球、社会人野球、プロ野球などでは、段々と試合が再開されてきた頃、大学野球は中々再開する目処が立たなかった。
「いつ試合ができるか分からない状況の中、どうチームを動かしていくのか、選手のモチベーションを保っていくのかが本当に難しかった」
そう話す小林は3月に全治半年の膝の怪我も負っていた。目標が定まらない中での練習、全治半年の怪我。
2つの困難が同時に新キャプテンに押し寄せていた。
それでも小林は、全体練習に参加できず個人のモチベーションが上がらない状況でも、チームのモチベーションを優先し続けた。
「この困難があってよかった。と来年思えるような取り組みを意識した。野球をできることが当たり前ではなくなったこの状況こそ、チームを変える良いチャンスだと思った」
勝つ為に楽しむ
小林は勝つまでの過程にこだわった。
「今後も存続していくチームの為にも、変わるきっかけをつくりたかった」と小林。
今までチームにあった「実力主義」の考えを見直した。
チームの戦力が落ちてでも、練習に参加しない選手、遅刻した選手はベンチに入れなかった。
そこには小林のある意図があった。
「今までは『練習が楽な野球』が楽しい野球、結果さえ出せばいいという風潮がチームにあった。そうではなく、メリハリをつけ、全員が野球本来の楽しさを味わえる部活にしていきたいと思った」
決して仲良し小好しの野球ではない。
楽しさを感じられるからこそ、真剣に取り組める。勝つ為には、一人ひとりが野球を楽しいと感じられる環境をつくる必要がある。と小林は考える。
勝てば官軍負ければ賊軍
9月に入り、ようやく対外試合の許可が出た。久しぶりの試合に胸が高まる。だが、それ以上に不安の気持ちが大きかった。
2年連続全国大会へ出場している常勝チームを引き継いだ主将として、勝たなければいけないプレッシャーがあった。そして何よりも新たな方針を選択したからこそ。
しかし、半年ぶりの試合は思うようにいかない。今までのように勝てない。
勝てば官軍負ければ賊軍。勝ってしまえば形はどうあれ、良しとされる。
「このまま負け続けてしまえば、前の方針で良かったとなってしまう気がした。この先のチームの為にも自分達が目指す野球で勝つしかないと思った」
結果が全ての勝負の世界。不安を感じながらも、チームの方針を変えずに貫き通した。
決して未曾有の事態のせいにはせず。
楽しむとは。
ある日の全体ミーティングでこんな意見が出た。
「もっと楽しくやりたい」「キャプテンについていけてない」
新チームが発足してから新たな方針でやってきたが、一部の選手の中では疑問もあった。
試合に勝ちたい気持ちは全員持ってるが、そこに行きつくまでの過程で意見が割れた。
「楽しくやる」とは。 深く考えれば考えるほど、難しくなっていく難題。
思えば入部の目的は人それぞれ違う。高校野球と同じぐらいの熱量でやりたいと思って入部した人もいれば、その対極で、ワイワイ楽しくやりたいと思って入部した人もいる。
両者共に納得できる野球があるのか。何が正解で、何が不正解か分からない問題。
そもそも、そこまで深く考える必要はないかもしれない。
それでも小林は両者の意見に耳を傾け、両者の意見を尊重した。
「勝ちたい気持ちは全員同じ。だからこそ、どこかで1つになれるやり方があるかもしれない」
だが、中々答えが見つからず、考え込んだ日もあった。
チームを良い方向に導いているつもりが、逆の方向へ導いているのではないかと不安もあった。
しかし、真摯に向き合う小林の姿勢は、知らぬ間にチームを良い方向へ導いていた。
「キャプテンを勝たせてあげたい」
今までなかった言葉が部員の口からでるようになった。
バラバラだったチームが少しずつ1つになってきた。
迎えた10月。今シーズン最後の大会となる、関口杯トーナメント大会。
「この大会でチームが1つになれた気がした」と小林。
3試合を戦い、全てコールドゲームで勝利し、4年ぶりの優勝を飾った。部員全員が勝利に向かって奮闘し、新チーム初めての栄冠を手にした。
試合後、部員達に胴上げされた小林。
宙に舞いながら、困難に向き合った分だけ、喜びを感じた。
最後に、取材メモに記してあった「この困難があってよかったと思えるか?」と質問しようとしたが、思いとどまった。
二重線を引いて、「来シーズンの目標は?」と書き換えた。
「優勝したことはとても嬉しい。でも、もっと強くなれるはず。必ず全国で勝てるチームをつくります」
やはり、答え合わせはまだまだ先だった。
(文:鈴木隼人)