“JUNKOWEB”

最速145キロ右腕、選手兼監督「異色の二刀流」に迫る 東北大・鈴木彬允

最速145キロの速球で三振を量産する本格派右腕が東北大に現れた。強気なピッチングが持ち味で、1年生から東北選抜に選出されるなど投手としての実力は申し分ない。選手としての活躍だけではなく、昨年夏からはチームの監督としても指揮を振るう。そんなチームの要である鈴木彬允(あきのぶ)(3年)の選手、監督としての素顔に迫った。

 

大学で投手を始める

仙台二高時代は遊撃手。投手経験は大学に入学するまで一度もなく、宮城県の中でも無名の選手だった。

「ピッチャーをやりたい気持ちはありましたが、その時は身体の線も細く、監督に認めてもらえなくて、、、」

高校卒業後、投手の夢を諦められずにいた鈴木は、準硬式野球部で投手に挑戦することを決意した。入部した当時は投手の人数が少なく、幸いにも1年生の春リーグからマウンドに上がることが出来た。当時の鈴木の球速は130キロ前半。ストレートには自信を持っていたが、打ち込まれることも多く、ほろ苦いピッチャーデビューとなった。

 

自分で考えて練習するのがスタンダード

東北大準硬式野球部には、指導者が不在。選手たちで練習メニューを 決め、ベンチ入りメンバーも決める。指導者がいない為、自分で考えて練習することが彼らにとっては当たり前のこと。大学から投手を始めた鈴木も、ゼロからピッチャーとしての基礎を研究し、土台を築いていった。

「誰も教えてくれないからこそ、自分から動かなければいけない。この状況こそが自分を成長させた最大の要因だと思います」

指導者が不在のチームは準硬式野球では珍しくない。だが、鈴木のように準硬式野球で花が開く選手は多い。この環境をプラスと捉えるか、マイナスと捉えるかは意見が別れるであろう。だがプラスに捉えれば、「自分次第で誰でも輝ける場所」ではないかと感じる。

f:id:tohokujunko:20200524000250j:plain

2年連続で東北選抜に選出された

140キロ超えを裏付けるものとは

準硬式のボールは硬式のボールと比べ、球速がでにくいと言われている。その中、常時140キロ前後を投げる鈴木に速球の極意を聞いた。

「自分がまずしたことは”常識”を疑ったことです。例えば、よくピッチャーは投げる時に「身体を開くな」と言われてると思うんですけど、本当に身体は開いちゃいけないのかなって」

確かに野球界では、動作の常識とされている言葉がたくさんある。「壁を作れ」「腰を回せ」「肘を上げろ」など一見分かりやすい言葉であるが、それを詳しく説明するとなると、難しい。

「まず身体が開くという状態を、自分の中で言語化しました。肩、股関節の可動範囲など身体科学の面も勉強して、結果、骨盤が正面を向くという意味では身体は開いてもいいと自分の中の正解を出しました」

この思考力には驚いた。ここまで論理的に説明できる選手は中々いないであろう。

そして情報収集の自己投資も惜しまない。鈴木は月/2000円を払って野球専門家が集まるオンラインサロンに入会している。そこで各種専門家のプロ水準のアドバイスを受け、学びを深めている。更に驚いたのが”批判的思考”だ。

「各選手でそれぞれ体の状態は異なるので、一流選手だとしても、すべての動作が理想的だとは思いません。各フェーズを切り取って、この身体の使い方は体が柔らかいから実現できるんだとか、自分なりに解釈しています。そのうえで、取り入れられそうな部分を選んで自分の動作に落とし込んでいます。」

頭に入ってきた情報は全てを鵜呑みにしない。一度自分の言葉で解釈して、”自分の身体に合った正解”を常に求めている。

ロジカルシンキング(論理的思考)とクリティカルシンキング(批判的思考)をうまく使いこなす鈴木は、まさに「思考の二刀流」とも言えるだろう。

 

f:id:tohokujunko:20200524000339j:plain

参考にする選手はドジャースのウォーカー・ビューラー

監督として語るこれからの準硬式野球

 次に監督として意識していることを聞いた。

「大前提としていることは、全員を試合に出すことです。この野球部に入ってきた理由は一人ひとり違う。本気で野球をやりたいと思う人もいるし、楽しくやりたい人もいる。その全員のニーズをできるだけ高いレベルで応えたいと思っています。それが実現できるのも準硬式の良さだと思っています」

 また、準硬式の今後についても更に深く、熱く語ってくれた。

「準硬式はもっと広がればいいなと思っています。高校時代に芽が出なかった選手でも、比較的自由な環境の準硬式で成長できる人はたくさんいると思います。」

準硬式は環境とレベルの高さのわりに競技人口が少ないのが現状。この現状を打破する案も鈴木は持っていた。

「これからは軟式や硬式で野球に取り組む人達との交流を更に盛んにして、準硬式の良さをアピールしていくべきではないでしょうか。特に、コロナの影響により甲子園が中止になって悔しい想いをしている高校3年生の選手たちにこそ準硬式を知ってほしいです」

 

更なる飛躍へ

「2年生としての1年間は怪我を抱えていたこともあり、自身で納得できるボールはほとんど投げることができませんでしたが、現在は完治し、以前よりレベルアップできました」

「卒業後は更に上のレベルにも挑戦してみたいです。自分の実力がどこまで通用するかを知りたいですし、もっと野球が上手くなりたい」

そう意気込む鈴木は更なる高みを目指して、日々考え続け、着々とそれを実行する。

 

今回の取材を通して、鈴木の考え方、それを実現させる身体能力、実行力の凄さに驚いた。いわゆる高学歴の東北大に所属しているということもあるのか、話していて地頭の良さも垣間見られた。

だが本当に感じた凄さはそこだけではない。

それは誰にも負けない”熱意”。誰でも持つことのできる熱意だが、鈴木の熱意は誰よりも熱いものを感じた。もっと上手くなりたという野球少年のような純粋な気持ちに加え、筋の通ったビジョンとプロセスがある。

国公立だからとか、身体能力が高いからとかは全く関係なく、一人の野球人としての熱意に心を惹かれた。

勿論、そこにはボールの違いも関係ない。

 

(文・鈴木隼人/写真/東北大学準硬式野球部)