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準硬式で目覚めた長距離砲、燃え尽きた先で掴んだものとは。 東北学院大・菊地達朗

70年以上の歴史がある東北学院大学準硬式野球部。2年連続全日本大会に出場し、昨季の秋季リーグ戦では全勝優勝(7勝0敗)を果たし圧倒的な強さをみせた。そのチームの主将であり、全勝優勝の立役者となったのが菊地達朗(4年)。持ち味のバッティングを生かしてチームを牽引している。

 チームの勝利だけを考えた仙台商時代
高校時代は県内の実力校・仙台商業の一番バッターとしてチームを牽引していた菊地。県内のスポーツ雑誌の表紙を飾るほど注目度が高かった選手だ。パンチ力があり、180センチ85キロと恵まれた体格ではあるが、ホームランは高校通算1本。菊地の恵まれた体格、スイングスピードから見ると少し物足りなく感じる。

「高校時代はチームの勝利のことだけを考えてました。ホームランを打ちたいとかは考えたことはなかったです。とにかく塁に出ること。ただそれだけでした。」
高2の春からレギュラーに定着し、高3の春季大会地区予選では、その年に甲子園に出場した東北高校に7ー1で勝利した。最後の夏の大会ではベスト16で終わるも、赤い旋風を巻き起こした。

 レベルの高さを痛感した大学1年目
高校引退後、菊地は野球に対して燃え尽きていた。甲子園という大きな目標を失い、何の為に野球をするのかが分からなくなっていた。だが、心の片隅には野球をやりたい気持ちがあり、先輩からの勧めもあって「準硬式野球」を選んだ。
菊地は1年目から出場機会をもらうが、10打数0安打で1年目のシーズンが終わった。持ち味のバッティングが生かせず、レベルの高さを痛感した。
「最初は準硬式を甘く見てました...思ったよりレベルが高くて、このままではいけないなと思いました。」

 再燃した野球熱 
1年目の結果を経た悔しさから、薄れかけていた野球に対する気持ちが段々と燃え始めてきた。今の自分に足りないものは何か。どうすればホームランが打てるのか。自分に問いかけ、仲間に問いかけ、必死になって考えた。
吉田正尚選手(オリックスバファローズ)の打撃フォームの動画を何度も見返し、身体の使い方を学び、ノックバットを使ってロングティーを行うなど、良いと思った練習方法はすぐに取り入れた。試行錯誤して練習しているうちに、スイングの軌道も変わり、打球の質も変わっていった。
菊地は真剣な表情で準硬式の環境についてこう語った。
「準硬式は監督やコーチから特に縛りはなく、やりたいと思ったことを自由に実践できる環境です。この環境だったからこそ、自分で考えて練習して成長できたと思います。」
高校野球より練習量や厳しさは劣るが、決して遊び感覚でやっている訳ではない。一人ひとりが自分に何が足りないのかを考えて練習している。勝利だけを追い求めるのではなく、野球本来の楽しさを味わいながらプレーしているのも印象的である。

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2019年秋季リーグ戦 対青森大 左中間に豪快な本塁打を放った

東北を代表する強打者に成長 
結果はすぐに現れた。2年春からレギュラーに定着し、2018年秋、2019年春、秋リーグで外野手として3季連続ベストナインを獲得した。2019年秋リーグでは7試合で本塁打3本を放ち、本塁打賞も獲得した。申し分のない結果を残した菊地は心境の変化についても語った。

「一番は野球に対する考え方が変わりました。勝つことだけに一生懸命になるのもいいですが、野球を心から楽しもうとする気持ちこそが良い結果に繋がると思います。やっぱりホームランを打った時は野球っていいなと純粋に思いますね。」

東北を代表する強打者に成長した菊地は新たな目標として”日本一”を掲げた。チームは2年連続全日本大会に出場するも、両年1回戦で敗退している。その悔しさを晴らすためにも、一致団結で日本一に挑む。

一度は燃え尽きたものの、再び本気になった菊地の目は輝いていた。菊地の放つ放物線が準硬式を熱くするに違いない。

 

(文・鈴木隼人/写真・東北学院大学準硬式野球部)